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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)226号 判決

アメリカ合衆国

イリノイ州60142、ハントレイ、ワンユニオン スペシャルプラザ

原告

ユニオン・スペシャル・コーポレーション

同代表者

テレンス エイ、ヒットパス

同訴訟代理人弁護士

鈴木修

深井俊至

同訴訟復代理人弁理士

増井忠弐

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

吉村真治

中村友之

吉野日出夫

主文

特許庁が昭和62年審判第9184号事件について平成4年6月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、拒絶査定を受け、不服審判請求をして審判請求が成り立たないとの審決を受けた原告が、審決は、本願発明の技術内容の誤認に基づいて、本願発明の不可欠な要素でないものを誤って不可欠であると判断し、また、本願発明の作用効果を奏するために構成が十分特定しているのに誤って特定されていないと判断して、本願発明の特許請求の範囲の記載が不備であるとの誤った結論を導いた違法があり、さらに、審判手続には審決の結論に影響を及す違法があるから、取り消されるべきであるとして、審決の取消を請求した事件である。

一  判決の基礎となる事実

(特に証拠(本判決中に引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)を掲げた事実のほかは当事者間に争いがない。)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年5月14日、名称を「ミシン」とする発明(以下「本願発明」という。)について、1982年5月14日にアメリカ合衆国に対してした出願の優先権を主張して、特許出願(昭和58年特許願第84868号)したところ、昭和62年1月6日拒絶査定を受けたので、同年5月22日査定不服の審判を請求し、昭和62年審判第9184号事件として審理された結果、平成4年6月18日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年8月5日原告に送達された。なお、原告のため出訴期間として90日が附加された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲)

(1) 少なくとも一つの送り歯と、主駆動シャフトと、前記送り歯を支承する送り棒と、前記主駆動シャフトに連結され該主駆動シャフトの回転に応じて揺動される揺動シャフトと、前記送り歯に水平方向の揺動を与えるために前記揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置とを具備し、該リンク装置は一端が前記送り棒に枢着された第一の駆動リンクと一端が前記第一の駆動リンクの他端に枢着された第二の駆動リンクと一端が前記第二の駆動リンクの他端に枢着され他端が前記揺動シャフトに枢着された揺動リンクとを備えて成ることを特徴とするミシン

(2) 少なくとも一つの送り歯と、主駆動シャフトと、前記送り歯を支承する送り棒と、前記主駆動シャフトに連結され該主駆動シャフトの回転に応じて揺動される揺動シャフトと、前記送り歯に水平方向の揺動を与えるために前記揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置と、前記送り歯の水平方向のストロークを調節するストローク調節機構とを備え、該リンク装置は一端が前記送り棒に枢着された第一の駆動リンクと一端が前記第一の駆動リンクの他端に枢着された第二の駆動リンクと一端が前記第二の駆動リンクの他端に枢着され他端が前記揺動シャフトに枢着された揺動リンクとを備えて成り、前記ストローク調節機構は前記リンク装置の傾斜を変えるようにされているミシン

(3) 主送り歯と、補助送り歯と、主駆動シャフトと、前記主送り歯を支持する主送り棒と、前記補助送り歯を支持する補助送り棒と、前記主駆動シャフトに連結され該主駆動シャフトの回転に応じて揺動される揺動シャフトと、前記主送り歯に水平方向の揺動を与えるために前記揺動シャフトと主送り棒とを連結する第1のリンク装置と、前記補助送り歯に主送り歯の揺動とは独立に水平方向の揺動を与えるために前記揺動シャフトと補助送り棒とを連結する第2のリンク装置とを備え、前記第1のリンク装置は一端が前記主送り棒に枢着された第一の駆動リンクと一端が前記第一の駆動リンクの他端に枢着された第二の駆動リンクと一端が前記第二の駆動リンクの他端に枢着され他端が前記揺動シャフトに枢着された揺動リンクとを有し、前記第2のリンク装置は一端が前記補助送り棒に枢着された第一の駆動リンクと一端が前記第一の駆動リンクの他端に枢着された第二の駆動リンクと一端が前記第二の駆動リンクの他端に枢着され他端が前記揺動シャフトに枢着された揺動リンクとを有することを特徴とするミシン

3  審決の理由の要点

(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2) 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面(特に、第11図及び第12図)の記載によると、揺動シャフトの揺動運動を送り棒に水平方向の往復運動として伝達するためのリンク装置は、主送り棒及び、補助送り棒を揺動するために、第一の駆動リンク、第二の駆動リンク、揺動リンク及び第一の駆動リンクと第二の駆動リンクとの枢着部を円弧状の所定の通路に沿って運動させるためのアンカーリンクにより構成され、このような構成により揺動シャフトの揺動運動を該シャフトに固定された揺動リンクを介して各々の送り棒に伝達されるものであることが明記されている。

さらに、主送り棒、補助送り棒ともに、これらのストロークを調整するためにアンカーリンクの揺動支点をベルクランクレバー及びクランクアームにそれぞれ設けることにより、これらの揺動支点位置を移動調節可能に構成することが記載されている。

ここで、上記揺動シャフトと送り棒との間で運動を伝達するリンク装置について検討してみると、第二の駆動リンクと、第一の駆動リンクとの枢着点の移動経路が一義的に定まることは、この枢着点にアンカーリンクが連結されていることで、揺動リンク、第二の駆動リンク、アンカーリンク、揺動シャフト及びアンカーリンクを揺動可能に支持している固定部分で4節リンク機構を形成しているためである。

したがって、上記リンク装置の中から、アンカーリンクを欠如すると、上述の4節リンク機構を構成しなくなるため、揺動シャフトの揺動位置に対応した上記枢着点の位置が一義的に定まらないことになる。

そして、この場合には、揺動シャフトが揺動しても、その運動は送り棒に伝わらないことになる。

そうすると、アンカーリンクは、本願発明を構成するためには、不可欠の要素であると認められる。

一方、本願発明の特許請求の範囲の第1項ないし第3項には、いずれもそれぞれの発明の構成に不可欠な、アンカーリンクが含まれていないし、また、揺動リンクは、揺動シャフトに固定されていなければならないにもかかわらず、この点も記載されていない。

また、同特許請求の範囲の第2項に記載されているストローク調節機構は、送り歯の水平方向のストローク調整を簡易に行うことができるという作用効果を奏するための具体的な構成が何ら特定されていない。

(3) したがって、本願発明の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項が記載されているものとは認められないので、本願発明は特許法36条4項の要件を満たしていない。

4  本願明細書に記載された本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果

(この項の認定は甲第2、第3号証による。)

(1) 本願発明は、ミシンの改良に関し、更に詳細には、送り歯の水平方向の揺動を有効に行うことができる特に工業用縁かがりミシンの改良に関する(平成4年4月22日付手続補正書添附の全文訂正明細書(以下「訂正明細書」という。)3頁14行ないし17行)。

一般に被加工物を送るために「上昇」、「下降」の上下方向の運動と「前方向」、「後方向」の水平方向の運動とを与えることは知られているが、従来、送り歯の水平方向の運動は、溝付きレバーとこの溝付きレバーの溝の中で摺動するブロックあるいは摺動体とを有する機構によって行われていた(例えば、昭和52年実用新案出願公開第148260号公報及び昭和55年特許出願公開第45428号公報)。しかし、このような従来技術では送り歯が水平方向に運動するとき摺動体あるいはブロックが溝付きレバーの溝の中を摺動するので送り歯の運動が円滑でなく、また、耐久性が悪かった。また、送り歯の水平方向のストロークを変える場合に、溝付きレバー及びブロック等の機構に送り歯の水平方向運動を妨げる力が作用するのでストローク調節が困難であるという欠点があった。本願発明は、上述のような従来技術の欠点を改善したミシンを提供すること(同3頁18行ないし4頁15行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2) 本願発明は、前記技術的課題を解決するために前記2の本願発明の要旨(特許請求の範囲)記載の構成(訂正明細書1頁5行ないし3頁12行)を採用した(別紙第一の各図面参照)。

(3) 本願発明は、前記構成により、前記(1)の欠点のない、かつ、送り歯の水平方向運動を行うリンク装置が第一及び第二の駆動リンクと揺動リンクとから成っているため、すなわちリンクの組立体であるので送り歯の水平方向運動を円滑に行うことができる上高速性に向き、しかも従来のように摺動部がないので耐久性がきわめて良くなり、また、リンクの枢着点の調節等を行うことによって水平方向のストローク調節を簡易に行うことができる(訂正明細書28頁8行ないし16行)という作用効果を奏するものである。

5  その他の争いがない事実

本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、審決認定の記載がある。

また、リンク装置については審決の検討の結果のとおりであり(ただし、アンカーリンクが本願発明の不可欠の要素であるとする部分を除く。)、また、本願発明の特許請求の範囲には審決が指摘するとおり記載(ただし、アンカーリンクが本願発明の構成に不可欠であるとする部分、揺動リンクが揺動シャフトに固定されていなければならないのにそのことが記載されていないとする部分及び第2項にストローク調整を簡易に行うことができるとの作用効果を奏するための具体的構成が特定されていないとする部分を除く。)がない。

二  争点

原告は、審決は、本願発明の技術内容の誤認に基づいて、本願発明の不可欠な要素でないことを誤って不可欠であると判断し(取消事由1、2)、また、本願発明の作用効果を奏するための具体的構成が十分特定しているのに誤って特定されていないと判断して(取消事由3)、本願発明の特許請求の範囲の記載が不備であるとの誤った結論を導いた違法があり、さらに、審判手続には結論に影響を及す違法がある(取消事由4)から、取り消されるべきであると主張し、被告は、審決の認定判断及び審判手続は正当であって、審決に原告主張の違法はないと主張している。

本件における争点は、上記原告の主張の当否である。

1  アンカーリンクについて

(1) 原告の主張(取消事由1)

審決は、本願発明を構成するためにはアンカーリンクが不可欠の要素であるのに、本願発明の特許請求の範囲第1項ないし第3項にはその記載がない、と認定判断している。

確かに、本願明細書の詳細な説明及び図面には、第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の位置を一義的に定める役割をも果たす部材としてアンカーリンクが記載されている。

しかしながら、当該アンカーリンクはあくまでも一例として掲げられているにすぎず、上記枢着点の位置を一義的に定める役割を果たす部材をアンカーリンクに限定しているわけではない。すなわち、本願発明においては、送り歯に水平方向の揺動を与えるために揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置を備えるものとし、当該リンク装置は一端が送り棒に枢着された第一の駆動リンクと一端が第一の駆動リンクの他端に枢着された第二の駆動リンクと一端が第二の駆動リンクの他端に枢着され他端が揺動シャフトに枢着された揺動リンクとを備えて成るものとされている。したがって、送り歯に水平方向の揺動を与えるために揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置を備えるとの記載がある以上、上記のようなリンク装置であれば、当業者には第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の位置(正しくは、移動経路)を一義的に定める部材又は構造を設けることは当然の前提となっており、そのため特にそのような記載がなされていないだけである。

本願明細書記載の実施例においては、このような役割をも果す部材として、アンカーリンクを掲げてあるが、アンカーリンクでなくても、第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点が送り歯の水平方向に自由に移動可能になるような構造を設けることでもよく、この枢着点の移動経路を一義的に定める方法はいくつも考えられ、特にアンカーリンクであるべき必然性はない。当業者であれば特に具体的な記載がなくても、上記のようなリンク装置との記載から、適宜この枢着点の移動経路を一義的に定めて、本願発明を容易に実施しうる。したがって、そのような当業者に当然の前提事実は、特許請求の範囲に記載する必要はない。

そうすると、第二の駆動リンクと第一の駆動リンクの枢着点の移動経路を一義的に定めるための任意に選択可能な複数の構成の中の一つであるにすぎないアンカーリンクが発明の構成に不可欠な要素ではないから、審決の上記認定判断は誤りである。

(2) 被告の主張

本願発明において、送り棒に送り運動を伝達するリンク装置として、揺動リンク、第一の駆動リンク、第二の駆動リンクの三つのリンクだけでは、揺動リンクの揺動は、第一及び第二の駆動リンクを揺動させるだけで、送り棒に前後送り運動を伝達することができない。送り運動の伝達には、これらの三つのリンクの外に第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の移動経路を一義的に定めるリンク又は部材が必要不可欠であり、そのための部材として、本願明細書にはアンカーリンクしか開示されていない。

すなわち、リンク装置の運動、アンカーリンクの役割について、本願明細書には、「第11図から理解できるように、第1のリンク装置94の運動について考察すると、揺動シャフト84を揺動させると、符号112で示した円弧に沿い運動せしめられる揺動リンク110上の一点108において揺動運動を生じるという効果がある。駆動(「揺動」の誤記)リンク110の揺動運動は第一および第二の駆動リンク100、102により主送り棒46の長さ方向運動に変えられる。すなわち、これら駆動リンクの揺動運動は第二の駆動リンク102に与えられる水平の運動成分を有している。第二の駆動リンク102を第一の駆動リンク100に接続する枢着部106はアンカーリンク116により確実に案内されて符号114で示した円弧状の所定の通路に沿い運動せしめられる。アンカーリンク116の機能と作用とは後述する。第一の駆動リンク100が第二の駆動リンク102にピンで接続されているので、第一の駆動リンク100は第二の駆動リンク102と共に運動せしめられ主送り棒46に横送り運動を与てそれにより主送り歯42を水平方向に運動させ被加工物に前進運動を与える。」(訂正明細書12頁5行ないし13頁5行)と記載され、上記記載で後述するとしたアンカーリンクの機能と作用について、送りストロークの調節機構に関連し、「主送り棒の送りストロークを調節するには第一および第二の駆動リンク100、102の支点位置を調節することにより、すなわち、枢着点106の位置を調節することにより行う。当業者に容易に理解できるように、枢着点106の位置が第一および第二の駆動リンクの揺動通路、従って、送り棒46に与える水平運動の大きさを左右する。第一および第二の駆動リンクの枢着点を調節するため本発明ではストローク調節機構140を設ける。このストローク調節機構は作業者が制御する。この機構140は一端がリンク100、102の枢着点106に接続されたアンカーリンク116とこのアンカーリンクに接続されたベルクランクレバー142とを含んでいる。」(同15頁15行ないし16頁9行)と記載されている。これらの記載によれば、アンカーリンクは、第一の駆動リンクと第二の駆動リンクとの枢着点106を確実に案内し円弧状の所定の通路に沿い運動せしめるための部材であって、この部材がなければ揺動リンクの揺動が送り棒に伝達されないから、アンカーリンクは本願明細書記載のリンク装置にとって必要不可欠のものであり、当該部材についてこの外に実施例の記載はないから、アンカーリンクは必須の構成要件となる。

また、送りストロークの調節は、第一及び第二の駆動リンクの枢着点106の位置を調節することにより行われるが、その調節機構140は、二つの駆動リンクの枢着点106により接続されたアンカーリンク116とこのアンカーリンクに接続されたベルクランクレバー142とから構成されており、ストローク調節機構においても、アンカーリンクは必須の構成要件となっている。

以上のとおり、アンカーリンクは、本願発明のリンク装置にとって必須の構成要件というべきである。

そして、前記(1)の原告の主張は、次のとおり、失当である。

〈1〉 本願発明は、従来のミシンの送り機構、換言すれば、送り棒に運動を伝達するリンク装置の欠点を改善することを技術的課題(目的)とするもので、リンク装置の構成は、本願発明の最も重要な構成要件となる。新たなリンク装置を提供するという以上、そのリンク装置は、装置としての目的が達成できるものでなければならず、その構成要件として、少なくとも運動伝達に必要な部材と部材相互間の連結状態について規定されなければならないことは当然である。

〈2〉 機械のリンク装置にあっては、一定の定まった運動を伝達するということ、リンク機構が限定連鎖を構成しているということが当然の前提事項であり、リンク機構がどのようなリンクによって構成されるか、それぞれのリンクがどのように連結されるかということは、リンク装置としての前提事項を満たすために必要な設計的条件である。特定の部材がリンク装置に必要不可欠であることが自明であるとしても、その部材の存在、他のリンクとの関連は、リンク装置としての前提事項に係わる事項であるから、必要不可欠な部材として自明であることをもって、その部材を特許請求の範囲に記載しなくてもよい理由にはならない。

駆動リンクの枢着点の移動経路を定める部材については特許請求の範囲には、何ら規定されていないのであるから、リンク装置としての運動の伝達に必要な構成が記載されておらず、必須の構成要件を欠いていることには変りがない。

〈3〉 本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)として、従来技術の欠点及び本願発明の技術的課題(目的)について前記第二の一4(1)のとおり記載されており、また、作用効果について前記第二の一4(3)のとおり記載されている。

これらの技術的課題(目的)、作用効果、すなわち送り運動の円滑性、高速性、機構の耐久性、調節の簡易性は、リンク装置として、リンク相互の連結点(対偶)のすべてを枢着(回り対偶)によって連結し、摺動部をなくすことによって達成できるものであるから、第一と第二の駆動リンクの枢着点の移動経路を一義的に定めるリンク(あるいは部材)の連結点も、第一のリンク及び第二のリンクの連結点と枢着(回り対偶)によって連結されるものでなければならない。

したがって、第一と第二の駆動リンクの枢着点の移動経路を一義的に定めるリンク(あるいは部材)は、両端の連結部を枢着部としたリンクでなければならず、そのようなリンクとして唯一本願明細書に記載されたアンカーリンクは、本願発明の必須の構成要件というべきである。

2  揺動リンクについて

(1) 原告の主張(取消事由2)

審決は、揺動リンクは揺動シャフトに固定されていなければならないのにもかかわらず、特許請求の範囲第1項ないし第3項にはその記載がない、と認定判断している。

確かに、特許請求の範囲には、揺動リンクは、揺動シャフトに枢着されている、と記載されている。

しかしながら、当該揺動リンクは、送り歯に水平方向の揺動を与えるための揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置の一部であって、当該揺動シャフトに接続するものである以上、ここにいう「枢着」とは「固着」の意味であることは明らかである。また、発明の詳細な説明においても、「摺動リンク110の他端は摺動シャフト84に固着されている」(訂正明細書11頁15行ないし16行)、「揺動駆動リンク130の他端は揺動シャフト84に固着されている」(同13頁17行ないし19行)と記載されており、「固着」の意味であることは明らかである。

したがって、上記審決の認定判断は、誤りである。

(2) 被告の主張

「枢着」とは、揺動リンクが揺動シャフトに揺動可能に軸支されていることをいい、固定されているという意味はない。機械装置の機構においては「枢着」と「固着」とは厳密に区別されており、特許請求の範囲に記載された「枢着」の意義は明確であって、とうていこれを「固着」の意味に解することはできない。

3  ストローク調節機構について

(1) 原告の主張(取消事由3)

審決は、特許請求の範囲第2項記載のストローク調節機構は、送り歯の水平方向のストローク調整を簡易に行うことができるという作用効果を奏するための具体的構成が何ら特定されていない、と認定判断している。

しかしながら、特許請求の範囲第2項には、「前記送り歯の水平方向のストロークを調節するストローク調節機構とを備え、……前記ストローク調節機構は前記リンク装置の傾斜を変えるようにされている」と記載されており、上記の作用効果を奏するために当該リンク装置の傾斜を変えるという具体的な構成が示されている。

すなわち、当該ストローク調節機構は、発明の詳細な説明において、「主送り棒の送りストロークを調節するには第一および第二の駆動リンク100、102の支点位置を調節することにより、すなわち、枢着点106の位置を調節することにより行う。」(訂正明細書15頁15行ないし19行)、「補助送り棒48を調節するには駆動リンク120、122の連結位置すなわち枢着点126を制御して行う。」(同21頁11行ないし13行)と記載されている。このように、第一の駆動リンクと第二の駆動リンクの枢着点の位置を調節するということは、本リンク装置においては、リンク装置の傾斜を変えるという構成にほかならず、本願発明の特許請求の範囲にこの構成が示されている。

そうすると、審決の上記認定判断は誤りである。

(2) 被告の主張

本願発明の特許請求の範囲には、ストローク調節機構についての構成は「リンク装置の傾斜を変えるようにされている」と記載されているだけである。「リンク装置の傾斜を変える」という記載自体、その技術的意味が不明確であるが、この記載があるからストローク調節を簡易に行うための具体的構成が示されているということはできない。

4  審判手続の違法についての原告の主張(取消事由4)の骨子

審決が本願発明が特許されるべきでないとした理由は、拒絶理由通知書の内容と異なるものであったため、審判手続において新たに拒絶理由通知をすべきであったのに、審決はその拒絶理由通知をしないままされたから、審判手続には、手続的違法があり、その違法は審決の結論に影響を及す。

第三  争点に対する判断

一  取消事由1について

1  前記第二の一2のとおり、本願発明の要旨(特許請求の範囲)においては、送り歯を移動する手段として「送り歯に水平方向の揺動運動を与えるために前記揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置とを具備し」と明記され、また、このリンク装置は第一及び第二の駆動リンクと揺動リンクとを備えて成ることが記載されている。

したがって、本願発明の特許請求の範囲においては、送り歯に確実に水平方向の揺動運動を与えるためには、第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の移動経路を一義的に定める部材を含むことを前提としているということができる。そして、本願発明の要旨(特許請求の範囲)においてその部材を特にアンカーリンクに限定する明示的な記載がないことは明らかである。

2  そこで、前記第二の一4において認定した本願明細書の記載の下で本願発明の技術的課題(目的)を更に詳細に検討してみる。

甲第6、第7号証と上記の認定事実によれば、本願明細書において従来技術文献として示された昭和52年実用新案出願公開第148260号公報には、別紙第二の各図面が添附され、殊にその第3図において、本願発明の主駆動シャフトに相当する駆動軸40が回転するとエキセン42、ピットマン44、クランク46の働きにより水平送り軸48(本願発明の揺動シャフトに相当する。)が揺動し、これに従い、水平送り軸48に固着された溝孔付きレバー98が布送り方向に揺動し、この溝孔付きレバー98の揺動運動が摺動可能に溝に装着されたリンク96に伝えられ、このリンク96の動きは更に送り歯支持部材32を通じて送り歯20に伝えられ、送り歯20が水平運動をするとの技術事項、すなわち、水平送り軸48の揺動運動を摺動可能な関係で連結された溝付きレバー98とリンク96を介して送り歯20に伝え、水平運動させる技術が記載されていること、同様本願明細書に従来技術文献として示された昭和55年特許出願公開第45428号公報には、別紙第三の各図面が添附され、殊にその第3図において、本願発明の主駆動シャフトに相当するミシン主軸15が回転すると、ロッド23及び腕22の作用により揺動軸21(本願発明の揺動シャフトに相当する)が揺動し、この揺動軸21の揺動に伴って、第一の副送り用揺動腕31が揺動し、この揺動運動が揺動腕31に摺動可能に装着された摺動体34及びリンク35を介して第一の副送り歯12を有する第一の副送り台11に水平送り運動を与えるとの技術事項、すなわち、揺動軸21の揺動運動を摺動可能な関係で連結された第一の副送り用摺動腕31と摺動体34を介して第一の副送り台11に伝え、水平運動に変える技術が記載されていることが認められる。

これらの認定事実と前記第二の一4の認定事実によれば、上記の従来のミシンの布送りに採用されていたリンク機構は、摺動関係で連結されたリンク機構、つまり摺動体又はブロックが溝付きレバーの溝の中を摺動するリンク機構を使用していたため、送り歯の運動が円滑でなく、また、耐久性が悪いという欠点があったため、本願発明は、この欠点を解決するために、摺動関係で連結された部分のないようなリンク機構、すなわち本願明細書に記載されたように節を一つ増やし枢着関係で連結されたリンク機構を採用したものであり、この点に本願発明の技術的課題(目的)があるということができる。

そして、甲第3号証によれば、本願明細書には、「揺動シャフト84の運動は第1と第2の独立したリンク装置94、96によりそれぞれ2つの主および補助送り棒46、48に伝達される。説明上の便宜のため、第1のリンク装置94が主送り棒46を駆動すると述べておく。従って、第2のリンク装置96が補助送り棒48を駆動することになる。好ましい具体例では、第1のリンク装置は2つのほぼ同様な第一および第二の駆動リンク100、102を含んでいる。第一の駆動リンク100はその一端が符号104で示した個所で段付きねじにより主送り棒46に枢着されている。主送り棒46との枢着点から第一の駆動リンク100は送り方向に後方に延び、符号106で示した個所で第二の駆動リンク102に枢着されている。第二の駆動リンク102は第一の駆動リンク100への枢着点106から延び、符号108で示した点で摺動リンク110の一端に枢着されている。この摺動リンク110の他端は摺動シャフト84に固着されている。このことにより、揺動シャフト84が揺動運動すると、揺動リンク110、第一および第二の駆動リンク100、102および主送り棒46とを介して主送り歯42を水平方向運動即ち送りおよび戻り運動させることが理解できよう。また、揺動リンク110の構造によりこの揺動リンクが主送り棒46とその駆動リンク100、102とを1つの横方向に押圧する手段として作用する。第11図から理解できるように、第1のリンク装置94の運動について考察すると、揺動シャフト84を揺動させると、符号112で示した円弧に沿い運動せしめられる揺動リンク110上の一点108において揺動運動を生じるという効果がある。駆動(「揺動」の誤記と認める。)リンク110の揺動運動は第一および第二の駆動リンク100、102により主送り棒46の長さ方向運動に変えられる。すなわち、これら駆動リンクの揺動運動は第二の駆動リンク102に与えられる水平の運動成分を有している。第二の駆動リンク102を第一の駆動リンク100に接続する枢着部106はアンカーリンク116により確実に案内されて符号114で示した円弧状の所定の通路に沿い運動せしめられる。アンカーリンク116の機能と作用とは後述する。第一の駆動リンク100が第二の駆動リンク102にピンで接続されているので、第一の駆動リンク100は第二の駆動リンク102と共に運動せしめられ主送り棒46に横送り運動を与てそれにより主送り歯42を水平方向に運動させ被加工物に前進運動を与える。第2のリンク装置96は第1のリンク装置94とほぼ同じ構造である。」(訂正明細書10頁18行ないし13頁7行)との記載があり、次いで第2のリンク装置96について上記第1のリンク装置94に関する記載と同様の記載(同13頁7行ないし15頁8行)があることが認められる。

この認定事実によれば、本願発明において、第1のリンク装置94は、揺動リンク110、第一及び第二の駆動リンク100、102とから成り、揺動シャフト84の揺動運動を主送り棒46すなわち主送り歯42の水平方向運動に変えるものであること、言い換えれば、揺動リンク110の揺動運動の水平な運動成分が、第二及び第一の駆動リンク102、100を介して主送り棒46の水平運動に変えられること、その際、アンカーリンク116は、単に第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点106を確実に案内するためのものにすぎないことが、明らかである。そして、確実性が低くなるかどうかを暫く措けば、このアンカーリンクがなくても枢着点104、106、108の位置関係により、揺動リンクの揺動運動の水平な運動成分を主送り棒の水平運動に変えうるものであること、第1のリンク装置94についていえば、揺動リンクの揺動運動の水平な運動成分を確実に送り棒の水平運動に変えるには、枢着点106の移動を案内する部材が必要となり、かつ、この案内部材として様々の機構を採用しうることは、技術上自明のことといわなければならないから、リンク装置94、96の構成として当該案内部材までも記載する必要性はないと判断される。

そして、上記認定のとおり本願明細書には、「枢着部106はアンカーリンク116により確実に案内されて符号114で示した円弧状の所定の通路に沿い運動せしめられる。」との記載があり、この記載によれば、枢着部106が円弧状の所定の通路に沿って運動できるような移動経路を定めるものがあればリンク装置は確実に作用すること、すなわち、アンカーリンクに代えて単に枢着点が移動できる円弧状の通路を設けるだけでリンク装置が作用することが明らかにされているが、上記判断はこの点からも裏付けられるということができる。

また、甲第3号証によれば、本願明細書には、「第一および第二の駆動リンクの枢着点を調節するため本発明ではストローク調節機構140を設ける。このストローク調節機構は作業者が制御する。この機構140は一端がリンク100、102の枢着点106に接続されたアンカーリンク116とこのアンカーリンクに接続されたベルクランクレバー142とを含んでいる。」(訂正明細書16頁2行ないし9行)と記載されていることが認められ、この認定事実によれば、本願明細書においてアンカーリンクは、あくまでもストローク調節機構の一部材として考えられており、リンク装置94、96の一部材として考えられてはいないことが明らかである。そして、本願発明の特許請求の範囲第1項記載の発明は送り歯に水平方向の揺動を与えるために揺動シャフトと送り棒とを連結するリンク装置を改良したものであり、同第2項記載の発明は当該リンク装置にストローク調節機構を加えたものと考えることができるから、アンカーリンクをリンク装置94、96の構成に不可欠なものとして考えるべき必然性もないというべきである。

3  被告は、本願発明において送り棒に送り運動を伝達するには第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の移動経路を一義的に定めるリンク又は部材が必要不可欠であるのに、そのための部材として、本願明細書にはアンカーリンクしか開示されていないから、アンカーリンクは本願発明において必須の構成要件である、と主張する。

確かに、本願発明のリンク装置において第二の駆動リンクと第一の駆動リンクとの枢着点の移動経路を一義的に定める部材が必要であることは否定することができないし、甲第3号証を精査しても本願明細書記載の実施例において当該部材としてアンカーリンク以外のものは記載されていない。そして、もし、アンカーリンクを構成に加え、アンカーリンクの一端を第一および第二の駆動リンクの枢着点106に枢着し、他端をベルクランクレバー142に接続して揺動支点を形成したとすれば、本願明細書の実施例において記載され、かつ審決でいう4節リンク機構が完結することも確かである。

しかしながら、2において述べたとおり、リンク装置94、96の構成において、該リンク装置が作用するには、アンカーリンクを設けなくても、枢着点106の移動経路を定める通路を設けさえすれば足りるものであり、そのことは当業者にとって技術的に自明であるから、アンカーリンクが必要不可欠の構成であるということはできない。

また、被告は、送りストロークの調節機構が二つの駆動リンクの枢着点により接続されたアンカーリンクとこのアンカーリンクに接続されたベルクランクレバーとから構成されていることを根拠に、アンカーリンクがストローク調節機構においても必須の構成要件となっている、と主張する。

被告主張のとおりアンカーリンクを本願発明の構成に含める必要性があるとすれば、当然ベルクランクレバーも構成に含める必要があることとなり、本願発明の特許請求の範囲にこれらを加えて実施例に示された4節リンク機構を完結したものを記載した場合、本願発明にいわゆるストローク調節機構をも構成に含めることになる。しかしながら、このようにストローク調節機構を構成に含めることなく、特許請求の範囲として、ストローク調節機構を除外し、単に送り歯に水平方向の送りを与えるリンク機構のみに限定することを許容しない理由はないし、前記第二の一4(1)及び(3)の事実と対比すると、ストローク調節機構までも構成に含めることは、かえって、本願発明の技術的課題(目的)、作用効果との間で整合性を欠くこととなり、被告の主張は採用できない。

4  そうすると、アンカーリンクが本願発明を構成するために不可欠の要素であることを前提に、本願発明の特許請求の範囲第1項ないし第3項に発明の構成に必要な事項が記載されていないとした審決の認定判断は、誤りというほかはない。

二  取消事由2について

1  前記第二の一2のとおり、本願発明の特許請求の範囲には、揺動リンクが揺動シャフトに枢着されていることが記載されているが、弁論の全趣旨によれば、機械装置の分野において「枢着」の語と「固着」の語とは厳密に区別されて使用されており、「枢着」の語に固定の意味はないことが認められる。

2  しかしながら、当業者は本願発明の特許請求の範囲の記載に基づき、本願発明は送り歯の水平方向運動を行うリンク装置が第一の駆動リンク及び第二の駆動リンクと揺動リンクとから成り、この構成により送り歯の水平方向の揺動を有効に行うものと理解することができ、したがって、当業者であれば揺動リンクが揺動シャフトに枢着、すなわち揺動可能に軸支されていたのではその機能を果たすことができるか疑問を抱くのが自然である。

そこで、甲第3号証に基づいて本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添附の図面の記載についてさらに検討すると、発明の詳細な説明の欄には、本願発明の技術的課題(目的)及び作用効果が前記第二の一4(1)及び(3)のとおり記載されており、かつ実施例として、「摺動リンク(「揺動リンク」の誤記と認める。)110の他端は摺動シャフト(「揺動シャフト」の誤記と認める。)84に固着されている。」(訂正明細書11頁15行ないし16行)との記載、「揺動駆動リンク130の他端は揺動シャフト84に固着されている。」(同13頁17行ないし18行)との記載、「揺動シャフト84を揺動させると、符号112で示した円弧に沿い運動せしめられる揺動リンク110上の一点108において揺動運動を生じるという効果がある。」(同12頁6行ないし10行)との記載、「揺動シャフト84を揺動させると、揺動リンク130には符号128で示した点で揺動運動が生じることは明らかでこの点128は符号134で示した円弧に沿い運動せしめられる。」(同14頁10行ないし15行)との記載があることが認められ、別紙第一の各図面の記載とも対照すると、揺動シャフトと揺動リンクとの接続関係は、シャフトが揺動するとリンクも一緒に揺動するように接続されていることが明らかである。

そうすると、当業者であれば、本願発明の特許請求の範囲に記載された前記1の「枢着」の語が「固着」の意味で使用されていることは当然に理解することができるというべきであり、特許請求の範囲に記載された前記1の「枢着」は「固着」の誤記であることが明らかであるから、本願発明の特許請求の範囲に「固着」又は「固定」という語が使用されず、この「枢着」という語が用いられているからといって、本願発明の構成が不明であるということはできず、したがって、特許請求の範囲の記載不備に該当するということもできない。

3  したがって、揺動リンクが揺動シャフトに固定されていなければならないにもかかわらず、本願発明の特許請求の範囲には、この点が記載されていないから、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないとした審決の認定判断は、誤りというべきである。

三  取消事由3について

前記第二の一2のとおり、本願発明の特許請求の範囲第2項には、ストローク調節機構について、「(前略)前記送り歯の水平方向のストロークを調節するストローク調節機構とを備え、(中略)前記ストローク調節機構は前記リンク装置の傾斜を変えるようにされている(後略)」と記載されている。

そこで、「リンク装置の傾斜を変える」という構成が、ストローク調節機構が送り歯の水平方向のストローク調節を簡単に行うことができるという作用効果を奏するための具体的構成となりうるかどうかについて検討する。

甲第3号証と前記一2の認定事実によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の欄に、送り棒の水平送りストロークを調節するストローク調節手段について、「主送り棒の送りストロークを調節するには第一および第二の駆動リンク100、102の支点位置を調節することにより、すなわち、枢着点106の位置を調節することにより行う。当業者に容易に理解できるように、枢着点106の位置が第一および第二の駆動リンクの揺動通路、従って、送り棒46に与える水平運動の大きさを左右する。第一および第二の駆動リンクの枢着点を調節するため本発明ではストローク調節機構140を設ける。このストローク調節機構は作業者が制御する。この機構140は一端がリンク100、102の枢着点106に接続されたアンカーリンク116とこのアンカーリンクに接続されたベルクランクレバー142とを含んでいる。」(訂正明細書15頁15行ないし16頁9行)との記載、「補助送り棒48を調節するには駆動リンク120、122の連結位置すなわち枢着点126を制御して行う。」(同21頁11行ないし13行)との記載、「ベルクランクレバー142を制御シャフト146を中心として自由に回転運動させ、第一および第二の駆動リンク100、102の枢着点106とこの枢着点の所定の揺動通路とを位置決めする。枢着点106が上下動すると、第一および第二の駆動リンク100、102に、最後には主送り棒46に伝達される水平運動を増減する。」(同25頁25行ないし26頁2行)との記載があることが認められる。

この認定事実によれば、ストローク調節機構は、アンカーリンクとベルクランクレバーとから構成されており、主送り棒の送りストロークを調節するには、第一及び第二の駆動リンク100、102の枢着点106の上下の位置を調節することにより行うことが明らかである。そして、別紙第一の各図面、殊に第11図及び第12図を参照して枢着点106、126の上下の位置を調節することの意味を考察すると、とりもなおさず、第一及び第二の駆動リンクで構成されたリンク機構を傾けることにほかならないということができる。

したがって、本願発明の特許請求の範囲第2項は、実施例において具体的に示された構成を記載したものではないけれども、本願発明の技術的思想を上位概念により把握し、これを機能的に表現したとみることができ、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないと判断することはできない。

そうすると、同項記載のストローク調節機構に作用効果を奏するための具体的構成が特定されていないとする審決の認定判断は、誤りである。

四  よって、その余の点を判断するまでもなく、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由があるから認容すべきである。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

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別紙第二

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別紙第三

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